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  • 2022年6月20日

Akaiwa District Sericulture Farmers 国の重要伝統的建造物群保存地区「赤岩地区養蚕農家群」

平成18年(2006)に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定された赤岩地区は中之条町の西部に位置しています。この地域は白砂川の段丘と山林原野に挟まれていて、水田などの稲作が難しい土地のため、養蚕が盛んだった村です。群馬県内はこのような環境で養蚕を生業に選んだ地域が多く養蚕業盛んになったようです。
ここは旧六合(くに)村の南端でしたが、平成の大合併で中之条町と一緒になり、すでに住所に六合の文字は残っていないのが残念です。かなり前ですが、母の知り合いの娘さんが「『くに』に嫁いだ」と聞いて『県内にそんな場所があるんだぁ~』と驚いたことを思いだしました。
六合(くに)の由来ですが、それぞれ独立した村の小雨、赤岩、生須、太子(おおし)、日影、入山の6つの大字(おおあざ)を合わせて村になったところから「六合」という名が生まれたのだそうです。


村に入ると最近整備された印象を受ける道沿いに、緩やかな傾斜地だが石垣でしっかり固められ、平らにならした敷地いっぱいにかなり大きな屋敷や蔵のある家々が並ぶ農村の風景だと感じました。

稚蚕飼育所跡

養蚕をする過程で、卵から稚蚕になるまでを育てるのはかなり難しく、家々により成長のバラツキが大きいため、その時期を地域で共同で育てる目的で約60年前の1962年(昭和37年)ごろに建てられた飼育所とのことで、ここには建設当時の温度調節の設備が残っているそうですが、昭和40年代には養蚕業の衰退が始まるので比較的新しい施設です。

建物の奥で3枚の蚕箔(さんぱく)の上にカイコ広げて飼っているのを見ることができました。ちょうど春蚕の時期だったこともあり、4齢くらいでしょうか?ここでカイコにクワをあげるなどをしていた年配の女性はとても養蚕に詳しいので、最近まで養蚕をされていたのではないかと思いました。
しかし、この地区で養蚕を続けている農家はもう絶えたようで、観光客向け(私たちですが)に『組みひも体験』などをしている方に聞くと「村に住むほとんどの人は生業で養蚕をしたことがない」と話されていました。

  • 稚蚕飼育所跡正面入口。土間ではなく、少し高くなっている。
  • 奥の方で飼われているカイコ
  • コロナ対策をしっかり、『組みひも体験』
  • 県内で養蚕をしているマユと糸のサンプル

三階建ての養蚕家屋

赤岩地区内で最も大きい3階建ての家屋のご主人、関さんに家の中を案内していただきました。
幕末から明治前期ごろに建てられたそうですが、この村の他のお宅はほとんど総2階建てなので、この総3階建ての家はかなり大きく、相当たくさんの量の養蚕をされていたのだと感じました。
重要伝統的建造物群保存地区内のこのお宅は養蚕に特化した構造を持っています。

  • 一階はすでに現在の生活がしやすいように改修されていますが、外観は「切妻造り平入(長手方向に出入口がある)」で正面外壁より前に梁が出ている「出梁(でばり)」があるこの保存地区独特の構造をしています。「出梁」は雨の日に濡れたクワの葉の水気を落とす場所として造られたようです。県内の養蚕家屋はここ以外の地域でも「切妻造り平入」の同じ形をしていますが、高山社跡を始めとする県南部の家屋と比べると「屋根の天窓・煙出し(屋根の上のヤグラ)部分」がないこと、「出梁」の作り方と屋根の軒の張り出し量などに違いがあるように思います。積雪が多い時に2階からの出入りができる点や屋根を二重にしないというこの違いは積雪や雨が多いなどの問題による工夫でしょうか?二階は仕切りのない大きな間で養蚕の進捗状況に応じて蚕架(さんか)の並べ方を変えやすくなっています。また、建物に3階があり天井に換気口がないことなどから、引き戸や床面に換気の工夫がされていました。

  • 二階は仕切りがなく、蚕架(さんか)をたくさん並べられる様になっている。クリの木の太い梁
  • 引き戸上部に換気の工夫
  • 引き戸に換気の工夫
  • 床板の何か所か外れるようになっていて1階の空気が循環できるようになっている
  • 養蚕には温度管理が重要だったことがわかる温度計の数々
  • 火鉢(ひばち)

薄暗い広い空間に置かれた多くの養蚕に係わる農具は、まだ見たことのないものばかりでした。さしずめ養蚕の歴史民俗農具展示資料館のようでした。

  • 蚕種紙と紙桝(かみます)
  • 改良折わら蔟(かいりょうおりわらまぶし)(明治)
  • 折藁蔟(おりわらまぶし)(明治~大正)
  • 折藁蔟(おりわらまぶし)以前のまっすぐな藁で分割した蔟
  • 莚(ムシロ)織機
  • 莚(ムシロ)織機の筬(おさ)、綜絖機能付き。自作とのことでとても興味深い
  • 大型の莚(ムシロ)織機
  • 緯方向の藁には撚りをかけて編みこんでいる
  • 整経台(織物の経糸の長さを決める)
  • 居坐機(いざりばた)
  • 真綿で衣類を編む道具
  • 桑つみ籠と背負子
  • ブリキの強盗提灯(がんどうちょうちん)
  • 明かりのための松ヤニスティック
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